出張講座JASRACラーニングスクエア

はじめに

2024年10月2日、JASRACラーニングスクエアの27回目の出張講座が、Sony Music JS LESSON ROOM（東京都千代田区）で開催されました。その内容と当日の様子をご紹介します。

１ 応募者と本講義について

今回の応募者は株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメントのSDグループです。株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメントは総合エンタテインメントカンパニーとして、マーケティングやアーティスト・タレント・クリエイターの発掘及び育成、デジタルコンテンツ事業などエンタテインメントビジネスを多角的に展開している企業です。

SDグループは、新人アーティストの発掘・育成に特化したセクションで、プロジェクトの一つとして2014年から毎年12歳～25歳のアマチュアミュージシャンを対象にアーティスト養成講座「the LESSON」を開催しています。
この講座は、約2か月間にわたりボイストレーニングや作詞・作曲、レコーディング・ライブ実習など、アーティストにとって必要不可欠な演習を無料で提供するもので、これまでにシンガーソングライターの幾田りらさん（ikura名義でYOASOBIのVocalとしても活動）やeillさんなどの多くのアーティストが、講座を受講した後にメジャーデビューを果たしています。

SDグループでは、受講者が法律に対して抱く「難しそう」「面倒そう」といった先入観を「将来的には自分を守る大切なものである」という認識に変えたいと思い、「the LESSON」初の試みとしてアーティストの権利を学ぶ講義を企画。受講者の立場や知識のレベルに応じた講義を提供できるラーニングスクエアを活用することで、有意義な講義が実現できるのではないかと考え、お申し込みされました。

２ 講師について

今回の出張講座の講師は、弁護士の唐津真美さんです。唐津弁護士は、日本と米国ニューヨーク州の弁護士資格を有し、エンタテインメント分野及びメディア関連の知的財産権や企業法務全般を専門として、これまでにテレビ局や音楽レコード会社、音楽プロダクションなどへの法務支援を数多く行っています。

３ 受講者について

受講者はアーティストを目指す12歳～22歳までの「the LESSON」13期生の総勢20名です。

４ 当日の様子・講義の内容について

「the LESSON」では、学生の皆さんが受講できるよう18時から講義が始まります。開始時刻が近づくと、楽器を背負った学生や制服姿の受講者が続々と集まりました。
唐津弁護士は冒頭、「難しい話が多いかもしれないが、アーティストを目指す皆さんならいずれ必ず遭遇する重要な話である。今日の講義で自分と他人の権利を知って、前向きに活動するための知識にしてほしい。」とメッセージを伝えて講義を開始しました。
その後、受講者がアーティストを目指す学生であることを踏まえ、次のテーマに沿って90分間にわたり解説しました。
・アーティストが持つ権利
・アーティストが出遭う可能性のある契約ごと
・SNSにおけるトラブル回避のための留意点

唐津弁護士は、まずアーティストの活動範囲を「音楽を作る」「演奏する」「SNSなどで発信する」「CMや広告に出演する」とに分け、それらの活動によってどのような権利が発生するのかを事例を上げながら説明。そのうえで、著作物とは何か、著作権者は誰か、という言葉の定義を確認し、著作隣接権や実演家人格権などアーティスト活動にかかわる各プレイヤーの持つ権利について丁寧に解説しました。
次に唐津弁護士はアーティストをめぐる「契約」に焦点をあてました。芸能プロダクションとのマネジメント契約やレコード会社との実演家契約、音楽出版社との著作権譲渡契約など、アーティストが結ぶ可能性のある契約を例示。その種類の多さに受講者からは驚きの声が上がりました。

唐津弁護士は「エンタテインメント業界では、慣習的に契約書の作成があまり重視されていないが、文字になっていることは非常に大きな意味がある。自分にとって重要だと思う契約はなるべく契約書を作ってもらうようにしてほしい。」と強く訴えました。もしも相手との関係性から契約書の作成を依頼しづらい場合は、契約内容を文字に起こしてメールなどで相手に伝えることでトラブルを予防するよう促しました。
そしてSNSでの情報発信については、写真や歌ってみた動画の投稿などの具体例を挙げ、他人の著作物を投稿する際にはどういった権利処理が必要なのかを解説しました。SNSでの情報発信は炎上しやすく、炎上した投稿は他人によって繰り返し拡散され完全に消すことは困難なため、唐津弁護士は「眠る寸前に投稿しない、酔っぱらったら投稿しない。不注意は一瞬、後悔は一生」との教訓を伝えました。

５ アンケートの結果

当日参加された皆さんにはアンケートをお願いしたところ、次のようなご意見をいただきました。
・音楽に限らず、権利や契約は絶対に知っておくべきものだと思った。
・アーティスト目線で分かりやすく丁寧に解説してくれたおかげで、安心して音楽活動ができる自信に繋がった。
・学校の情報の授業で著作権について学んでおり、今回の講義でより理解が深まった。細かいところまで教えてもらい感謝しかない。

この他にも、多くの受講者、そしてSDグループの皆さまからも非常に有意義な講義だったとの感想をいただきました。

最後に

「the LESSON」13期生の皆さん、当日の進行を含め事務対応をいただいたSDグループの皆さま、そして講師の唐津弁護士、この度はありがとうございました。出張講座JASRACラーニングスクエアでは、今後も様々な講義の開催を予定しております。

（文責：事務局員）