
出張講座JASRACラーニングスクエア
お申込みフォーム麻布高等学校主催の講座「AI社会に生きる」が開催されました。

はじめに
2024年5月25日、JASRACラーニングスクエアの13回目の出張講座が麻布高等学校(東京都港区)で開催されました。その内容と当日の様子をご紹介します。
1 麻布高等学校について
麻布高等学校は、自由闊達・自主自立を教育理念に掲げる1895年創立の中高一貫の高等学校です。同校の校舎は東京メトロ日比谷線の広尾駅から徒歩10分ほどの場所にあり、カタール大使館やマダガスカル大使館といった外国大使館に隣接しています。

2 応募者と本講義について
今回の応募者は、麻布高等学校国語科教諭の坂倉さんです。坂倉さんは、 麻布高等学校独自の教育プログラムである「教養総合」において、AIをテーマにした授業「AI社会に生きる」を担当しています。
「教養総合」は、勉学に対する積極性や自主性を育むことを目的として、高校1年生~2年生を対象に実施する教育プログラムで、語学や体育、プログラミングなど約30種類の授業群の中から、生徒が興味のある授業を自ら選択して受講することができるものです。そのうちの一つである「AI社会に生きる」では、全8回に渡って、「個人や社会はAIとどう向き合っていくのか」をテーマに講義が行われます。講義は同校の卒業生をはじめとした多方面の分野の講師がリレー形式で担当。生徒にとって身近で特に関心の高い音楽産業分野の権利関係及び収益構造の理解を深めることを念頭にJASRACへ依頼されました。
3 講師について
今回の出張講座の講師は明治大学情報コミュニケーション学部の今村哲也教授と、音楽プロデューサーでミュージシャン、JASRACの理事も務めるエンドウ.さんのお二人です。
今村講師は、日本工業所有権学会 理事、公益社団法人日本複製権センター(JRRC) 理事、著作権法学会理事などを務め、著作権法を中心とする知的財産法がご専門です。今回の講義テーマでもあるAIについては、国内外の学会で多数の発表を行うほか、『AIと著作権』(勁草書房、2024年)の執筆に携わるなど、深い見識を持っています。
一方のエンドウ.講師は、パンクロックバンド「GEEKS」のギター&ヴォーカルやクリエイターギルドバンド「月蝕會議」のバンドマスターを務める傍ら、他のアーティストへの楽曲提供も行っています。

4 受講者について
受講者は「教養総合」の数ある授業の中から「AI社会に生きる」を選択した高校1年生~2年生の生徒の皆さんです。坂倉さんによると、この授業の定員は当初40名だったそうですが、受講希望者が多く、定員を拡張した結果、総勢61名になりました。このことから、生徒の皆さんのAIへの注目の高さが窺えます。

自由闊達・自主自立の教育理念を掲げる麻布高等学校では校則が殆どなく、制服もないことから、生徒の皆さんは自由なファッションで講義を受講しました(鮮やかに染まった髪色は、講義の数週間前に行われた学園祭の名残だそうです。)。20年間赤髪を貫いているというエンドウ.講師は、その姿に非常に親近感を抱いた様子でした。
5 当日の様子・講義の内容について
当日は、今村講師とエンドウ.講師が交代で登壇し、学識者と実務者のそれぞれの視点から計100分間にわたって講義を行いました。
初めに登壇した今村講師は「生成AIをめぐる著作権法上の論点」と題して、次の4点について解説。
・弁護士なんていらない!?
・僭称著作物問題
・無料との闘い
・寛容的利用と著作権法
このうち「弁護士なんていらない!?」においては、実際にChatGPTを用いて、次の手順で「AI生成物が著作権侵害になるのか」を検証しました。
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①「AI社会に生きる」第7回講義の授業風景の写真をChatGPTに読み込ませ、写真の情報を文章に変換する。
↓
②変換した文章を再度ChatGPTに読み込ませ、文章を基に画像を生成する。
↓
③元の写真と新たに生成された画像をChatGPTに比較させて、新たに生成された画像が著作権侵害にあたるかどうかをChatGPTに検証させる。
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検証の結果、今村講師から見てもChatGPTの出した結論は、概ね正しいものでした。しかし、今村講師は、AIが常に正しい回答をするとは限らず、その回答を見極めるためには人の力が重要であり、「弁護士なんていらない」とは言えないことを強調しました。

講義の終わりには「AIとの競争に負け、人は淘汰されてしまうのか」と問いを改めて生徒の皆さんに投げかけ、「今回の講義をきっかけにして、各自AIとの向き合い方について考えてほしい」とのメッセージを送りました。
一方のエンドウ.講師は「著作権はなぜ大切なのか」と「生成AIの話」の2つをテーマに講義を行いました。前半では、テレビやYouTube、音楽サブスクリプションサービス等で自身の音楽が利用された際の印税額を例示しつつ、クリエイターの収益の内訳についてわかりやすく解説。さらに、エンドウ.講師自身が実際に被害に遭った著作権侵害の事例を紹介し、権利者の目線から著作権保護の重要性を説きました。後半では、音楽業界におけるAIの立ち位置について解説。作詞作曲の現場では、AIは部分的な利用に留まっているが、将来的に音楽業界でAIが台頭したとしても、結果的に生歌や生バンドなど人間が生身で創り出したものの価値が高まることになるのではないかとの見解を述べました。

講義の中で両講師が共通して語ったのは「AIの台頭によって人が創造するものに価値が見直され、著作者のオリジナリティ(著者性)が改めて尊重されるだろう」ということでした。
6 アンケートの結果
当日参加された生徒の皆さんにはアンケートをお願いし、様々なご意見をいただきました。その中で群を抜いて多かったのが「著作権の最前線にいる人達の話が聞けたことは貴重」との声でした。その他にも次のような好意的な感想を多数いただきました。
・最近ネットにはAIイラストなどが溢れていて何ともいえない感覚を抱いていたが、今回の講義で曖昧さがなくなったように感じた。
・AIの発達で職を奪われることばかり聞いていたが、逆に人の作ったものの価値が上がるという話にハッとさせられた。
・自分の可能性を広げるうえで、これらの知識を得ることは大事だと思った。
・印税で稼ぐことは夢がある。
最後に
受講された麻布高等学校の生徒の皆さん、当日の進行を含め事務対応をいただいた坂倉さん、そして講師の今村教授とエンドウ.さん、この度はありがとうございました。出張講座JASRACラーニングスクエアでは、今後も様々な講座の開催を予定しております。
(文責:事務局員)
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